腕を捥いだら羽が生える。
座右の銘というには少し歪な響きだけど、いつからかこんな言葉を胸の内に抱えている。
誰かに言われた言葉かもしれないし、どこかで読んだ言葉かもしれないけども、ずいぶん前からずっとある。
「いいからその腕を捥げ。」
−−−−−
一番好きだったのは、大学の頃に付き合った女の子だった。
2年半。人生の中でそれほど長い時間を共にしたわけではないけど、一番好きだったのは多分その子だ。
もう彼女は結婚してしまったし、僕もその後たくさんの恋をしたけど、今でも時々その子のことを思い出す。
「最後まで、木津くんのことが全然わからなかった。」
自分の一言でこれほど人を悲しませられるのかと驚くほど、彼女は泣いた。
別れを告げたのは僕の方だ。
−−−−−
「お前舐めてんのか。」
新卒で入社した会社の上司は、決して高圧的な人ではなかった。
だからあの時僕に向けられた言葉は、理性ではなく感情によって選択された言葉なのだと思う。
考えてみれば当然だ。
大して仕事ができるわけでもない部下の退職理由が「一度辞めてみようと思いました。」であるなら、誰だって不愉快な気持ちになるのだろう。
血迷ったと、思われたかもしれない。今でも申し訳ないことをしたなと思う。
それでも、衝動に勝てなかった。
−−−−−
腕を捥ぐというのは、もちろん比喩だ。
その時自分が一番大事にしているもの、あるいは自分が一番依存しているものを、切り離すこと。
腕を捥いだら羽が生える。
それまでの自分には想像もできなかった、新しい選択肢が生まれる。
もちろん血はドクドクと流れるし、羽だって生えないかもしれない。
でも、そこで死ぬならそれまでだ。
−−−−−
「いいからその腕を捥げ」
相変わらず、僕は衝動に勝てない。
腕を捥いだ直後、血液が体内を猛スピードで巡るその振動が、病みつきになっている。
終わりに
以上です。
振り返り時の参照用に、昔別の媒体で書いた記事をコピペしています。
これは、僕が大学を出てから2社目の会社(厳密には設計事務所)を退職して、住んでいたシェアハウス『モテアマス三軒茶屋』を出た翌日に書いた記事です。「こんなん書いたらもう就職できないだろ」と思いつつ、衝動で書きました。
また来てね!